本邦初のデュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬
2020年5月本邦で、初めてのデュシェンヌ型筋ジストロフィーの新規治療薬(ビルテプソ®)が保険承認されました。
ビルテプソ®は、エクソンスキッピング治療薬と呼ばれるもので、ジストロフィンのエクソン53を読み飛ばすことで症状の軽減を図る薬です。
エクソンスキップ治療の性格上、治療の対象となる患者さんは、エクソン53を読み飛ばすことでジストロフィン蛋白の発現が回復する遺伝子変異を持つ患者さんに限られます。
ご自身が治療対象となるかどうかは、担当医にご確認ください。遺伝学的な診断(遺伝子診断)がまだの方、かなり以前に受けられた方では、検査をする必要があるかもしれません。
エクソンスキップ治療イメージ
健常者
DMD患者
エクソンスキッピング治療
治療対象となる変異パターン
- エクソン43-52欠失
- エクソン45-52欠失
- エクソン47-52欠失
- エクソン48-52欠失
- エクソン49-52欠失
- エクソン50-52欠失
- エクソン52欠失 など
ビルテプソ®による治療でデュシェンヌ型筋ジストロフィーが治りますか?
エクソンスキッピング治療は、遺伝子変異(エクソン単位の欠失・重複)によって遺伝情報が読み取れなくなった患者さんにおいて、薬剤(アンチセンス)で隣接するエクソンも読み飛ばすことで、遺伝情報が読み取れるようにする治療法です。
エクソンスキッピング治療で発現するジストロフィンは元々の変異部分と読み飛ばしたエクソンが抜けた短いジストロフィン(変異蛋白)です。このため、治療のイメージはデュシェンヌ型筋ジストロフィーの患者さんをベッカー型筋ジストロフィーに変える(進行を緩やかにする)ものです。
また、ビルテプソ®は骨格筋には取り込まれますが、心臓には取り込まれないので、心筋への治療効果は期待できません。
治療はどのように行いますか?
ビルテプソ®は点滴で投与します。週1回の投与になります。
治療期間が長くなるので、お住まいの近くで投与してもらえる医療機関を探しましょう。2021年11月25日から、在宅投与も可能となっています。
近くの医療機関や在宅で投与が受けられても、有効性や安全性の評価は専門機関で行う必要があるので、定期的な専門機関への通院は継続してください。
高額な治療薬なので、指定難病や小児慢性特定疾病、身体障害者手帳の申請なども考慮しましょう。
深刻な副作用はありますか?
これまでの治験では、深刻な副作用は報告されていません。しかし、投与された患者さんの数が少ないので、これから治療を受ける患者さんのデータを集積して有効性・安全性を確認していくことが必要です。
このために、特定使用成績調査や臨床試験が実施されています。治療を受ける方は、これらにご協力ください。
治験で見られた主な副作用には、発熱、注射部位の発赤・痛みがあります。それ以外には、アレルギー反応(発疹、湿疹、じんましんなど)、泌尿器への影響(血尿、排尿時の痛みなど)、腎機能障害などがあります。
動物での毒性試験では、rasH2マウスにおいて、尿管に移行上皮癌ができたとの報告があります。このため、投与前後で尿細胞診や腹部エコーなどの検査が必要です。
専門機関への定期的な受診をしましょう
ビルテプソ®は「条件付き早期承認制度」により、通常のお薬よりも早い段階で保険承認されています。このため、有効性と安全性に対するデータはまだ十分ではなく、市販後の特定使用成績調査や臨床試験でデータを収集していくことが求められています。
データが集まらずに有効性や安全性が証明できなければ、保険承認が取り消される可能性もあります。これらの評価は専門機関で行う必要があるため、お住まいの近くで投与を受けられる患者さんでも、定期的に専門機関を受診して検査や評価を受けるようにしてください。
ビルテプソ®の効果を十分に得るには、リハビリテーションなどを含む一般的な医療をきちんと継続することが大切です。そのためにも、専門機関への定期受診をお勧めします。