誤嚥性肺炎を繰り返さない工夫と
合併症の早期対処に向けた定期的な受診を

眼咽頭型筋ジストロフィーとは

45歳以降に発症。顔や脚の筋力低下が特徴

眼咽頭型筋ジストロフィーとは、45歳以降にまぶたが重く下がったり、飲み込みにくさや話しづらさがあったり、腕や太ももの筋力が低下する筋ジストロフィーです。

筋肉の細胞質や核に異常が起きることによる病気です。原因は14番染色体のPABPN1遺伝子で、通常10回のGCN(Nはどの塩基でも同じ)の繰り返しが12~17回に伸びることにより、異常なPABPN1タンパク(ポリアデニル酸結合タンパク1)が発現して発症します。

写真を持って行くと、わかることがある

常染色顕性(優性)遺伝形式で、両親のどちらかが原因となる遺伝子変異を持っています。
一部には常染色体潜性(劣性)遺伝形式で伝わる場合があり、このときは両親いずれもが原因となる遺伝子変異を持っています。
くわしくは「遺伝について」をご覧ください。

この病気かどうかが心配なときは、患者さんのお父さん・お母さん・親戚の写真を主治医に持っていきましょう。まぶたが下がっているなど、この病気に特徴的な顔つきになっていると、気が付かれることがあります。

主な症状

「歳だから」ではない、顔と手足の筋力低下

顔の筋力がゆっくりと低下していきます。まぶたが下がってくる「眼瞼下垂」と食べ物が飲み込みにくくなる「嚥下障害」が起き、症状が進行すると栄養障害や誤嚥性肺炎、窒息などのリスクが高まります。

眼瞼下垂、嚥下障害のどちらが最初に現れるか、どのように進行するかは個人差がありますが、数年で両方の症状が出るとされています。

また下肢の筋力低下による「歩行障害」も現れます。

  • 顔面筋力低下
    顔全体の筋力低下だけでなく、のど(咽頭筋)や舌の拘縮もあります。眼瞼下垂、眼球運動制限、嚥下障害、構音障害といった症状になります。
  • 眼瞼下垂
    まぶたを上げる筋力が弱くなり、瞳を覆うようにまぶたが下がって視界が狭くなります。
    ものが見えにくくなる、「眠そうに見える」と言われるほか、肩こりや頭痛、疲れやすさにつながります。
  • 眼球運動制限
    目のあらゆる向きへの動きがしづらくなります。ものが2つに見える「複視」も起きることがあります。
  • 嚥下障害
    咽頭筋や顔の筋力低下によって、食べ物をうまく飲み込むことができなくなります。
    誤嚥性肺炎や窒息を引き起こすことがあります。
  • 構音障害
    唇・顎・鼻・のどなど、声を出す器官の動きが低下し、発音がうまくできなくなります。
  • 下肢近位筋筋力低下
    ふとももなど、体の中心に近い方の筋力が低下します。
    階段の上り下りが不自由になったり、床や低い椅子、トイレから立ち上がることが難しくなったりします。

療養の留意点

誤嚥性肺炎を繰り返さない・窒息にも気をつける

顔やのどの筋力が低下しているのに、元気なときと同じように食べ物を飲み込もうとするのは危険です。
誤って気管に入ってしまうと誤嚥性肺炎になりやすく、飲み込めないと窒息することもあります。

毎日のリハビリや日常生活の工夫

  • 手・脚の筋力低下
    理学療法士(PT)や作業療法士(OT)による適切なリハビリテーションで、関節が拘縮しないようにしてください。車いすを利用する場合でも、関節拘縮しないようにするためのリハビリを受けるようにします。
  • 骨折しないようにする
    骨折すると安静にせざるを得ないので筋力が低下します。できるだけ骨折しないよう、歩きにくくなったら杖や歩行器、車いすを利用してください。立ち上がりにくい場合は、椅子や補高便座なども検討しましょう。
  • まぶたが下がってきたら
    眼瞼下垂に対応したメガネ(クラッチグラス)を検討しましょう。まぶたの上を切って持ち上げる手術もありますが、一方で目が閉じにくくなる可能性もありますので、手術をする際は主治医とよく相談してください。
  • 食事の工夫
    ケアをするご家族の方は、患者さんの飲み込みの様子を注意深く観察しながら食事を食べやすくしましょう。患者さんが誤嚥を恐れて食べないと栄養障害になります。
    栄養のバランスに気をつけながら、食べやすい大きさに食べ物を切る、とろみをつけるなどの工夫をします。患者さん自身で食べ物用のハサミで食べやすい大きさに切るのもお勧めです。
  • 誤嚥で症状を悪化させないために
    のどや舌の筋力が弱っているので、気をつけていても誤嚥が起きることがあります。定期的に歯科で口腔ケアをし、きれいな状態を保つことが大事です。
  • 話しにくくなったり、食べ物を飲み込みにくくなったりしたら言語聴覚士(ST)のリハビリテーションを受けましょう。
    良い姿勢を保ちながら発声・発音練習をするなどのリハビリを続けると、発音がうまくできるようになり、周囲とのコミュニケーションも楽しめます。

    言語聴覚士は、安全な飲み込み方法や食事の姿勢などの指導も行うので、嚥下障害にも効果があります。嚥下障害は輪状咽頭筋切断手術などでも症状を緩和できますが、悪化するまで放置せず、まずはリハビリを続けましょう。

定期的受診で合併症を防ぐ

症状はゆっくり進行しますので、定期的に診察をして、合併症が起きているかどうかを早めに知って対応すると、生存期間が延長し、生活の質も向上します。

この病気は一部で「呼吸筋や心筋は侵されない」と言われていますが、実際には肺活量の低下(呼吸筋障害)や不整脈(心伝導障害)、前頭機能低下、末梢神経障害などの合併症がみられます。「何も起きていない」と思っても診察を受けましょう。

よく似ている病気との違いを知っておこう

眼咽頭型筋ジストロフィーとよく似ている病気に「眼咽頭遠位型ミオパチー」があります。

眼咽頭型筋ジストロフィーは手足が体の付け根に近い方の筋肉(近位筋)が侵されますが、眼咽頭遠位型ミオパチーは手足の先の方(遠位筋)が侵されます。

一番の大きな違いは、原因遺伝子です。眼咽頭筋型筋ジストロフィーの場合はPABPN1遺伝子です。

筋ジストロフィーの根本治療は原因遺伝子を治すこと。さまざまな筋ジストロフィーで、その方法が研究されています。
眼咽頭筋型筋ジストロフィーでも、異常なPABPN1タンパクの発現を抑えたり、正常なPABPN1タンパクの機能改善をしたりなどの研究が進んでいます。

眼咽頭型筋ジストロフィーと眼咽頭遠位型ミオパチーの比較
眼咽頭型筋ジストロフィー 眼咽頭遠位型ミオパチー
原因遺伝子 14番染色体
PABPN1
8番染色体
LRP12
指定難病 指定難病113
筋ジストロフィー
指定難病30
遠位型ミオパチー
臨床症状
眼瞼下垂 よくある よくある
外眼筋麻痺 ある ある
顔面筋筋力低下 よくある よくある
嚥下障害 よくある よくある
近位筋筋力低下 よくある まれ
遠位筋筋力低下 まれ ある
血清CK上昇 ある ある
心合併症 頻度不明 ない
呼吸合併症 頻度不明 まれ
筋電図検査
筋原性変化 よくある よくある
ミオトニー放電 ある ない
筋病理検査
筋原性変化 よくある よくある
縁取り空胞 よくある よくある

Lu H, Luan X, Yuan Y, et al. The clinical and myopathological features of oculopharyngodistal myopathy in a Chinese family. Neuropathology. 2008; 28: 599-603.より改変