心筋障害マネジメント

ポンプ機能の障害(心不全)と不整脈に注意
定期的な心機能評価で早期対応を

症状がなくても定期的な検査が必要

手足の運動機能が比較的保たれた(軽症な)患者さんは、心臓の機能も良好であると思いがちです。

しかし、筋ジストロフィーの一部の患者さんは運動機能が正常な段階で、心不全を発症します。

心不全は心臓の能力(機能)と心臓にかかる負担のバランスが破綻することで生じます。従って、運動機能が良好な患者さんでは心臓にかかる負担が大きく、心臓の機能が不十分だと心不全が先行する場合があるのです。

不整脈も、運動機能が保たれた患者さんで問題となることが見られます。病型によって特徴がありますが、「体が動けるうちは、心臓も大丈夫」ではないことに注意しましょう。

心筋障害もゆっくり進行するために、早い段階で患者さんやご家族が気付くことは困難です。

「まだ大丈夫」と自己判断せず、定期的な心機能検査を受けることはマネジメントの大原則です。

正常な心臓の構造


正常な心臓の構造

心臓は、体から戻ってきた血液を受け入れる右心房、その血液を肺に送り出す右心室、肺から戻ってきた血液を受け入れる左心房、その血液を体に送り出す左心室からなります。

心筋には、心臓を収縮させる「作業心筋」と信号を伝える「特殊心筋」があります。

心臓の拍動は右心房にあるペースメーカーの役割をする部分(洞結節)から発生した信号を特殊心筋が心房から房室結節、心室への3本の経路(右脚、左脚前枝、左脚後枝)を伝わって心室全体に素早く伝え、心室全体を同期させて収縮させることで行っています。

心筋症

作業心筋の障害により、心臓の収縮する力が弱くなることで起きます。多くの場合は心室壁厚が薄く内腔が拡大する拡張型心筋症の形を取りますが、心室壁厚が肥大する肥大型心筋症の形を示す場合もあります。

拡張型心筋症


拡張型心筋症

肥大型心筋症


肥大型心筋症

不整脈(心伝導障害)

特殊心筋の障害や自律神経機能異常により、心臓を動かすための信号を伝える仕組みが正しく機能しなくなることで生じます。

原因としては、ペースメーカーの役割をする部分の異常(洞不全)、心房から心室への伝わり方の遅れ・遮断(房室ブロック)、異常な伝導経路の形成、心室内での伝わり方の遅れ・遮断(脚ブロック)、障害された心筋による異常な信号の発生等があり、脈拍の上昇(頻脈)、減少(徐脈)、乱れなどを生じます。

重篤な不整脈では、血液をきちんと送り出すことができなくなるため、突然死の原因ともなります。


心臓の電気信号の伝わり方

12誘導心電図+ホルター心電図+心エコーが必須

心臓の電気生理学的検査としては12誘導心電図が基本ですが、計測時間が短いことから、不整脈の検出には24時間連続したデータを測定するホルター心電図が必要です。

不整脈の誘因として、運動や食事、睡眠、呼吸状態などが影響するため、計測時に生活記録をつけておくことは対応策を考える上で重要な情報となります。

心臓の動きや心筋の状態を観察するには、心エコーが一般的に行われます。MRIによる心機能評価も普及しつつありますが、変形の強い患者さんや人工呼吸器が外せない患者さんでは実施が困難です。

血液検査でも心臓のストレスや心筋障害を評価します。
これらの検査は異常のない場合でも年1回、異常がある場合はその程度に応じてより高頻度に観察することが必要です。
ほかにも、アイソトープを用いた心筋シンチグラフィーなどを行う場合もあります。
詳しくは主治医・循環器科の医師と相談してください。


ホルター心電図
ホルター心電図の計測装置の例

心筋障害治療は守りが基本

呼吸筋力低下による呼吸不全に対しては人工呼吸器が大きな効果を発揮し、筋ジストロフィーの生命予後を大きく変化させました。

心不全に対する同様の手段としては、人工心臓、心臓移植、左室形成術がありますが、筋ジストロフィー患者さんにとって現実的な選択肢ではありません。

このため、心筋症に対する治療の基本は、心筋の保護と心負担の軽減です。前者としては、高血圧の治療薬として開発されたACE阻害薬/ARBとβ遮断薬の2種類の薬が用いられています。心筋の保護が目的ですから、心不全の早期から導入することが大切で、そのためにも定期的な検査が重要です。

心負担の軽減方法としては、利尿剤と生活指導が中心になります。心臓のポンプ機能が不十分になると、血液がうっ滞した状態になります(うっ血性心不全)。このような状態で、利尿剤を用いて血液の量を減らすと心臓の負担が軽減され循環状態が改善するのですが、脱水や電解質異常、腎不全を引き起こす危険性もあるため、漫然と使用しないことも大切です。

生活指導は病型や患者さんの生活状況・運動機能によってさまざまですが、規則正しい生活、十分な休養(睡眠時間確保)が基本です。肥満の強い患者さんではダイエットも大切です。

不整脈の治療は薬剤と、ペースメーカー、植え込み型除細動器、カテーテル・アブレーション(心筋焼灼術)などがあります。

いずれも症状と病型に応じた適切な方法を検討する必要がありますので、主治医である神経内科の医師と循環器科の医師双方に相談してください。

外科手術・歯科的処置が必要な場合は要注意

全身麻酔を伴う手術では注意が必要です。病気の存在と現在の状態をきちんと伝えることが何より大切です。手術前に心臓、呼吸、嚥下機能などの検査を受け、必要に応じ呼吸理学療法やNPPVの練習を行っておくなど、十分な備えをして臨むようにしましょう。

歯科的処置を受ける場合も、局所麻酔薬の使用や処置中の呼吸・誤嚥防止について注意が必要な場合があります。骨粗鬆症治療薬など内服している薬が問題になる場合もあります。同様に病気の存在をきちんと伝えるようにしましょう。

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