今できる医療をきちんと受け
新しい医療を手に入れよう

筋ジストロフィーの病型(種類)

「筋ジス」にはいろいろな病型(種類)がある

筋ジストロフィー(筋ジス)とは、筋肉(骨格筋)の変性や壊死(えし)が起きる遺伝性疾患の総称です。
さまざまな病型(種類)があり、それぞれ違った特徴があります。

筋ジストロフィーに共通するのは、「遺伝子に変異があるために起きる」、「徐々に筋力が低下する」ことです。

遺伝子の変異で、なぜ筋力が低下するのでしょうか。

遺伝子はタンパク質の設計図です。
遺伝子に変異が起きると、タンパク質の設計図が変わってしまうため、筋肉に必要なタンパク質が正常に作られなくなることがあります。タンパク質の機能が異常になると、細胞の機能も維持できなくなり、筋肉が変性・壊死します。
その結果、筋萎縮や筋肉の脂肪化・線維化が起き、筋力が低下して運動などに支障が出るだけでなく、さまざまな症状を引き起こします。

遺伝子変異から機能障害に至るプロセス

症状や発症年齢、遺伝形式によって分類される「病型」

「筋ジストロフィー」は発症年齢や遺伝形式(病気の伝わり方)に応じて分類される「病型」があります。

  • ジストロフィノパチー
    • デュシェンヌ型筋ジストロフィー
    • ベッカー型筋ジストロフィー
    • 女性ジストロフィノパチー

近年、筋ジストロフィーの研究は、病気の原因となる遺伝子(責任遺伝子)を同定し、その遺伝子が作るタンパク質の機能を解析して病気のメカニズムを明らかにする形で進んできました。病気の原因となる遺伝子(責任遺伝子)は、毎年発見されていますが、まだ責任遺伝子が同定されていない病気が多数残っています。
責任遺伝子が多数発見されたことで、筋ジストロフィーの分類も責任遺伝子やタンパク質に基づく新しい分類が出てきており、現在の分類方法も今後見直される可能性があります。

その一方、筋ジストロフィーは同じ遺伝子に変異があっても異なる病像を示す場合(表現型多様性と言います)や、異なる遺伝子の変異でも似通った症状を示す場合(遺伝学的多様性と言います)があることもわかってきました。このため、臨床症状だけでは病型や疾患を特定できないため、確定診断には遺伝学的検索(遺伝子診断)や免疫組織学的検索(筋生検:筋肉を採取して調べる検査)が必要となります。

※遺伝子についての詳しいページはこちらです。

筋ジストロフィーの症状

動きにくくなるだけではなく、さまざまな症状がある

筋肉(骨格筋)の障害は、運動機能(歩いたり手を動かしたり)の低下だけでなく、以下のようなさまざまな症状を引き起こします。

  • 咀嚼(かみ砕く)、嚥下(飲み込む)、構音(言葉の発音)機能の低下
  • 眼瞼下垂(まぶたが垂れ下がる)、閉眼困難(目が閉じにくい)、眼球運動の障害
  • 表情の乏しさ

次のような症状も骨格筋の障害により起きることがあります。

  • 拘縮(関節が硬くなり、動かせる範囲が狭くなる)・変形
  • 骨粗しょう症(骨が弱くなる)
  • 歯列不正(歯並びの乱れ)、咬合不全(かみ合わせの不良)
  • 呼吸不全、咳嗽力低下(強い咳ができず、痰が出し切れない)
  • 誤嚥(ごえん:食物や唾液などが誤って気管に入ってしまう状態)・栄養障害

心臓(心筋)や腸の運動(平滑筋)にも筋肉が関わるため次のような症状も起きます。

  • 心不全・不整脈(心筋障害)
  • 胃腸の機能不全・便秘(平滑筋障害)

一部の病気では、筋肉の障害以外に下記の症状も合併することがあります。

  • 中枢神経障害:知的障害、発達障害、けいれん
  • 眼症状:白内障、網膜症
  • 難聴

筋ジストロフィーの治療法

今できることは、たくさんある

体の機能と合併症の有無を定期的に検査すること、将来に生じる障害を予見した対応を取ることが基本です。
運動機能とそれ以外の機能障害・合併症については、疾患ごとの特徴はあるものの、決まった順序で生じるとは限りません。筋ジストロフィーを専門にしている神経内科医・小児神経科医を中心に、必要な診療科を受診し、早期発見と早期対応をするように努めましょう。

リハビリテーション
健康維持や生活の質・活動範囲を維持する上で、早期からの導入が必要です。

リハビリテーションは関節可動域訓練、転倒・事故予防対策、装具や車いす処方、呼吸理学療法、摂食嚥下訓練、IT訓練・社会参加支援などが中心です。

筋力増強を目的とした筋力トレーニングは筋肉を痛めるリスクが高いため、勧めていません。
詳しくはこちらをご覧ください。

呼吸機能低下への対応

呼吸機能(肺活量)が低下し、血液中の酸素や二酸化炭素を正常に維持できなくなる(呼吸不全)と、人工呼吸療法を行います。一般的に非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)という、マスクを用いて呼吸を補助する人工呼吸器を使用します。人工呼吸器を適切に使うことで、呼吸不全による死亡は激減しました。一方で、不適切な使用法や設定により、十分な効果が得られていない事例も多く見られます。専門医療機関できちんとした管理を受けられることを勧めます。

筋ジストロフィーでは多くの患者さんで呼吸器管理期間が長期間に及びます。良好な呼吸管理を維持するには、肺をきれいに保つこと・柔らかく保つこと(二次性肺障害の予防)がきわめて重要です。呼吸リハビリは、この目的において不可欠なものです。また、在宅で呼吸器を使用される神経筋疾患患者さんには排痰補助装置が保険適応となっています。積極的な利用を勧めます。

長期間の在宅生活の中では予期せぬトラブルや災害が起こりえます。非常時に備えた救急対応訓練や電源や予備物品の確保、家族・支援者・医療機関との連絡方法、緊急避難の方法等をあらかじめ検討しておきましょう。

心機能低下への対応

心機能の低下(心不全)に対しては、心保護剤を中心とした対応を行います。規則正しい生活や体重管理、十分な睡眠確保など生活管理も重要です。呼吸不全が存在する場合は、適切な呼吸管理を行いましょう。不整脈については薬物治療のほか、ペースメーカー・除細動器などの植え込み式機器や心臓カテーテルによる焼灼術(アブレーション)を行うこともあります。

筋ジストロフィーでは運動機能の低下や呼吸器装着などで、一般の人に比べて心臓への負担が低下しているので、心機能が低下していても自覚しにくいのが特徴です。
このため、心機能低下に気づかずに過ごしていて、感染などをきっかけに突然心不全が悪化し重篤な事態に至ることがあります。定期的な評価で経時的な変化を把握して適切な投薬、生活指導などを受けるようにしましょう。

咀嚼・嚥下機能低下への対応

咀嚼・嚥下機能が低下すると、十分な栄養が摂取できない、食べたものや唾液が気管に入る「誤嚥」を生じるようになります。
臨床症状や嚥下機能評価に基づき、嚥下訓練や食形態の調整、補食などを考慮します。

十分な栄養が摂取できない、誤嚥リスクが高い場合は経管栄養や胃ろう造設も検討します。
筋ジストロフィーでは変形や心肺不全のため胃ろう造設が困難な場合が少なくありません。嚥下機能に問題がある場合には、胃ろう造設について早い時点から主治医と相談されることをお勧めします。

脊柱変形への対応

筋ジストロフィーの患者さんは、歩行可能な時期から足の拘縮・変形が見られるようになり、小児期発症の患者さんでは、歩行不能になった後に脊柱の変形(側弯)や胸郭の変形が見られることが多くあります。

これを防ぐために、早期からの下肢関節可動域訓練、立位訓練、座位姿勢の指導が重要で、車いすを使うようになってからも、適切なシーティングが重要です。

こうした工夫やコルセットなどを用いても、脊柱・胸郭の変形が強くなり、座位の維持が困難、呼吸への影響が大きい場合には、側弯を矯正するための手術(脊椎固定術)を行う場合があります。広範囲の手術で手術の負担も大きいため、適切な手術時期を選択する必要があります。歩行可能な時期から定期的にレントゲン検査を受け、早期から整形外科の医師と相談しておくことが大切です。

患者さんみんなで新しい治療法を手に入れるために

新しい治療法が使えるようになるためには「治験」が必要

現在、筋ジストロフィーではさまざまな病型に対する治療薬の開発が進んでいます。
新しい治療法(治療薬)が国内で認可され、医療保険で使えるようになるためには、患者さんによって有効性と安全性を確認する「治験」が必要です。

患者数が少ない病気だからこそ、国際協調に基づく患者登録が大切

筋ジストロフィーは、患者さんの人数が少ない病気(希少疾病)です。
そのため治験を始めようとしても「どういった患者さんがどれだけいるかわからない」、「治験の基準に該当する患者さんを集めることが難しい」という問題に直面してしまいます。

こうした問題を解決する目的で、ジストロフィノパチー、福山型筋ジストロフィー、筋強直性ジストロフィー、先天性筋疾患(先天性筋ジストロフィー、先天性ミオパチー、筋原線維ミオパチー、先天性筋無力症、その他の先天性筋疾患)では国際協調的な「患者登録」が行われています。

患者登録とは、患者さんひとりひとりの診断根拠(遺伝子変異)と現在の病状を記録するデータベースで、国際的に共通した項目を収集しています。患者さんの人数が少ないため、国をまたいで治験を行う「国際共同治験」も考えられるためです。

今後は、患者登録の対象となる筋ジストロフィーの病型を拡大することも検討されています。

詳しくは神経・筋疾患患者登録サイト「Remudy」をご覧ください。

Remudy

患者登録の「更新」は、確かな医療を開く

患者登録は、治験を進めるためだけの役割ではありません。
「患者さんの臨床経過(自然歴)」が、多くの患者さんによって継続して蓄積されると、医療をより良く進化させることにつながります。

協力する患者数を増やし、患者さんみんなが患者登録のデータ更新を続けていけば、大きな力になります。
対象となる病気の患者さんは、主治医と相談して患者登録と更新をしていきましょう。

筋ジストロフィーで日常気をつける点

疲れないように、普通の暮らしを

  • 筋肉に過剰な負荷を掛けない範囲で適度に体を動かしましょう。運動中やその後に筋肉が痛くならないこと、疲労を感じない範囲を目安に体を動かしましょう。障害の重い部位と軽い部位があるので、どのような運動をどの程度するのが良いかについては、リハビリで相談されることを勧めます。
  • 筋力トレーニングは筋肉を痛めるおそれがあるので、勧めません。
  • 転倒しやすい患者さんは保護帽・プロテクターや環境整備、監視・介助などで事故を防ぎましょう。けがや骨折で動けない時期を作ると、廃用によって筋力低下・筋萎縮が進む、拘縮・変形が増悪する危険性があります。
  • 規則正しい生活やバランスのとれた食生活を心がけ、体重の変化にも目を配りましょう。
  • 感染予防も大切です。手洗いやうがい・マスクの装着、インフルエンザなどのワクチン接種対策をしてください。

症状がなくても定期的に検査を受ける

  • 合併症は早期発見と早期対処が原則です。
    病気の進行が緩やかだと重篤になるまで症状に気付かないことが多いので、「症状がないから大丈夫」と過信しないでください。
  • 専門医療機関を定期的に受診し、機能評価や合併症の検査を受けることが大切です。異常が発見された場合は主治医とよく相談して、適切な時期からの治療を始めましょう。

呼吸器感染をこじらせない

  • 咳の力が不十分だと、痰が出しにくく、風邪をこじらせやすくなります。痰が切れにくいと感じる場合は早めに受診しましょう。
  • 高熱や下痢、食事・水分摂取が困難な場合も早めに受診し、点滴などの処置を受けましょう。

手術を受ける必要があるときには

  • 全身麻酔が必要な手術を受ける場合は、トラブルを避けるため、どんなに軽症であっても病気の存在を主治医に伝え、術前に心肺機能検査を受けましょう。
    筋ジストロフィーのどの病型かを伝えることは、適切な麻酔方法や術式の選択に不可欠です。
  • 必要に応じ、手術前に呼吸理学療法(咳嗽訓練など)や非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)の練習を行います。
  • 呼吸不全や心不全、嚥下機能障害の強い患者さんでは歯科治療にも特別な配慮が必要な場合があります。
    抜歯などの処置においては、あらかじめ主治医と相談されることを勧めます。

信頼できる専門医に相談しよう

筋ジストロフィーは、運動機能障害以外にも多岐にわたる課題があります。
こうした課題を熟知して適切なアドバイスをしてくれる、信頼できる専門医に受診するようにしましょう。

専門病棟を持つ病院、神経・筋疾患の臨床試験に取り組む「筋ジストロフィー臨床試験ネットワーク」に参加している病院のリストはこちらをご覧ください。