二次性障害予防と
活動範囲拡大に寄与するリハビリを

リハビリは患者さんの全ステージで必要

筋ジストロフィーは、今でも根本的な治療法のない病気です。それでも、かつて「20歳までしか生きられない」とされていたデュシェンヌ型筋ジストロフィーは、現在では50歳代の患者さんも見られるほどに生命予後が改善しました。

呼吸管理や心筋保護治療の効果が大きかったことは確かですが、リハビリテーションを含む集学的医療の支えがなければ、これほどの効果は達成できていません。

残念ながら、機能障害や合併症の進行は現時点で止めることはできませんが、リハビリは患者さんが成人後や呼吸器を装着するようになっても在宅(地域)で生活できること、重度の障害を抱えても活動範囲(ADL)を維持し、生活の質(QOL)を高めることに寄与しています。

筋ジストロフィーにおけるすべてのステージにおいてリハビリテーションは不可欠なものです。
ただし、リハビリテーションの実施においては、さまざまな注意事項があります。

注意点1:過用と廃用のいずれも予防する

    • 高い負荷をかけて行うパワートレーニング(抵抗運動)は療法士やトレーナーがついた(監視)状態であっても筋肉を障害するリスクがあります。
    • 低負荷でコントロールされた運動は、廃用予防や機能維持に有効と考えられています。
    • 筋ジストロフィーでは全ての筋肉が同じように冒されるのではなく、疾患や個人によって弱い部位と保たれた部位があるため、療法士による機能評価を受けて、適切な運動方法・量を指導してもらいましょう。


関節可動域
「変形予防の実際」より
国立病院機構 広島西医療センター リハビリテーション科 佐藤善信
筋ジストロフィー リハビリテーションセミナー(ベーシックコース)」2017年6月11日にて

  • けがや骨折などによって動けない時間を作ると、廃用による機能障害が進行します。保護帽やプロテクター、環境整備など、けがの防止に努めましょう。

注意点2:心・肺・嚥下機能などにも注意する

  • 筋ジストロフィーでは心筋や、呼吸機能、嚥下機能も冒されることが多いため、これらに十分配慮することが安全にリハビリを行う上で大切です。
  • 患者さんが症状として自覚していなくても、これらの障害が存在していることは少なくありません。リハビリの開始前には心機能、不整脈、呼吸機能、低酸素血症、嚥下機能等の検査を受けましょう。

注意点3:患者さんの社会参加・自己実現の達成を援助

  • 重度な障害を抱えていても社会参加し、自己実現を図ることはリハビリテーションの大きな目標です。
  • リハビリ介入による移動手段の確保、表現(意思疎通)能力・IT技術の習得などは社会参加だけでなく、進学や就労などによる自己実現にも不可欠なものです。
  • 患者さん自身と家族が自己決定・自己管理能力を身につけることができれば、自立に向けての大きな一歩になります。

注意点4:中枢神経障害の配慮をする

  • 筋ジストロフィーの中には中枢神経障害(知的障害、発達障害など)を合併する疾患もあります。心理評価を受けることで、適切な対応法が見いだせる場合もあります。

注意点5:リハビリを継続する

  • 筋ジストロフィーは進行性の病気のため、現時点の障害だけでなく、将来に表れると予測される課題を予見して対策を構築することが大切です。
  • リハビリは日常に継続的に実施することが大切です。患者さんが専門医療機関と連携して継続的なリハビリテーションが受けられるよう、患者さん・ご家族だけでなく、周囲からのさまざまな形での支援が必要です。